(3) 以上に説示したところによれば,控訴人Bは,B譲渡株を現に引き受け,こ
れを取得しているのであるから,その引受け及びこれを譲渡したことによる所
得は,同控訴人に帰属するのであって,これらに対して課税することは適法で
ある。
4 課税時期のF株の時価を売買実例により算定することの可否
(1) 控訴人A及び控訴会社は,所得税基本通達23~35共-9(4)イによれば,
非上場株式の評価方法について,「売買実例があるものにあっては,最近におい
て売買が行われたもののうち適正と認められる価額」によるものと定められて
いるのであるから,当該株式について売買実例が存在する場合にあっては,売
買の相手方について,特別の利害関係がないという第三者性が確保されている
以上,その売買代金額が特別に非合理に実体とかけ離れた価額でない限り,そ
れは売買実例として尊重されるべきであるとして,控訴人Aが控訴会社から昭
和62年3月30日及び31日に,F株合計113万株を譲り受けたことによ
る給与所得の収入金額の算定に当たっては,控訴会社が,昭和62年3月30
日,I銀行らにF株を譲渡した際の売買代金額をもってその価額を評価すべき
であると主張する。
( ) 2 しかし,所得税基本通達23~35-9(4)イが,売買実例がある場合であ
っても,「適正と認められる価額」によるものに限り,その売買代金額をもって
非上場株式の評価をすべきものとしている趣旨は,たとえ,第三者との間の取
引といえども,必ずしも適正な価額で取引されるとは限らないことから,第三
者との間の売買実例のうち,これが適正な価額での取引がされたものであると
認められる場合に限り,その売買代金額をもって,当該株式の評価をすべきこ
とを定めたものというべきである。
そして,純然たる第三者間において,種々
の経済性を考慮して定められた取引価額は,一般に合理性を有するものといえ
るから,通常は,これをもって適正な価額と認めるのが相当であるが,その取
引価額の算定が経済的合理性を欠くことが明らかである場合には,これをもっ
て適正な価額と認めることはできないことは当然である。
これを本件についてみると,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第
三当裁判所の判断」の二に説示するように,控訴会社のI銀行らに対するF
株の譲渡は,I銀行らにも,他の金融機関と同程度の株式を保有してもらうこ
とによって,安定株主を増やすとともに,将来にわたるI銀行らとの円滑な取
引を期待してされたという側面があることを否定しきれないのであって,I銀
行らに特別の利害関係がない第三者性が確保されていると認めるについては,
疑問を差し挟まざるを得ない。
また,仮に,I銀行らが,控訴会社とは特別の
利害関係のない第三者であるとしても,前記引用に係る原判決の上記部分に説
示するように,控訴会社とI銀行らとの間のF株の売買代金額は,O株式会社
第二企画部が発行した発行価額算定書及び売却資料に依拠したものであるが,
発行価額算定書は,Fの第22期(昭和58年9月1日から昭和59年8月3
1日までの事業年度)及び第23期(昭和59年9月1日から昭和60年8月
31日までの事業年度)という古い事業年度の事業報告書を基礎資料として,
純資産価額方式よって算定した株式の価額と上記事業年度の平均当期利益を用
いて収益還元法によって算定した株式の価額との折衷によってF株の時価を評
価したものであり,売却資料は,Fの第24期(昭和60年9月1日から昭和
61年3月31日までの事業年度)の貸借対照表を基礎資料として純資産価額
方式によってF株の時価を評価したものであって,しかも,発行価額算定書及
び売却資料は,純資産価額方式によってF株の価額を算定するに当たり,帳簿
価額をもってその資産を評価しており,当該資産の取得時から評価時までの価
格上昇による評価益が全く算定の基礎に含まれていないのである。
これらの事
実に,Fの第24期ないし第26期の資本合計及び当期利益が,それぞれ第2
2期,第23期に比べて大幅に増加していることや昭和62年当時,不動産の
価格が高騰を続けていたことが公知であることをも考慮すると,発行価額算定
書及び売却資料によるF株の価額が,上記のように古い事業年度の事業報告書
等を基礎資料として,しかも,帳簿価額をもって資産を評価して算定された価
額であることが明らかである以上,これらに依拠して定められた売買代金額を
もって,昭和62年3月時の適正な価額と認めることはできない。